RD114ウイルスの受容体

 RD-114 ウイルスはネコの内在性レトロウイルスである.内在性のネコ白血病ウイルスとは異なり,感染性をもったプロウイルスがゲノムに存在し,培養細胞で時に活性化して感染性粒子として飛び出す.家ネコのみならずネコ属(Felis)に分類されるすべての種がこのウイルスをもっていると考えられているが,感染性をもっているか否かについては不明である.RD-114 ウイルスは,gag-pol 領域がガンマレトロウイルスであり,env 領域がベータレトロウイルスに属するキメラウイルスである.また,RD-114 ウイルスのenv 領域はヒヒの内在性レトロウイルス(baboon endogenous retrovirus [BaEV])と極めて近縁である.RD-114 ウイルスはネコの細胞には感染せず,異種指向性(xenotropic)とされてきたが,培養細胞レベルにおいては一部ネコ由来の細胞にも効率良く感染し,多指向性(polytropic)と考えられる.ヒトの細胞上では,RD-114 ウイルスはBaEV のみならず,霊長類由来ベータレトロウイルス(タイプD レトロウイルス)であるサルレトロウイルス1 から5(simian retrovirus 1,2, 3, 4, 5 [SRV-1, 2, 3, 4, 5]),REV と干渉し,これらは同じ受容体を使用すると考えられた.1999 年になって,2 つのグループがこれら大きな受容体干渉グループに分類されるウイルスの受容体を同定した.同定された受容体はナトリウム依存性の中性アミノ酸トランスポーターであり,ASCT2 と呼ばれている.ASCT2 は8 回膜貫通蛋白であり(10 個の疎水性領域をもっているが,そのうち2 つは膜を貫通していない),5 つの細胞外ループをもっている.マウスもヒトもASCT を2 種類もっており,ASCT1 とASCT2 は約57% のホモロジーをもっている.ASCT1 およびASCT2 がトランスポートするアミノ酸は完全には同一ではない.RD-114 ウイルスはヒトのASCT1 もASCT2 も利用することが出来るが,ASCT2 の方をより効率的に利用できる.また,RD-114 ウイルスはNIH3T3 細胞に感染しないが,細胞をツニカマイシン処理すると感染するようになる.興味深いことにBaEV はマウス由来細胞であるNIH3T3 細胞に感染するが,マウスのASCT2 はBaEV の受容体としては機能せず,BaEV がマウス細胞に感染するときにはASCT1 を用いている.このように同じ受容体干渉グループに属していても,使用する受容体はウイルスと標的細胞の動物種によって異なる.RD-114 ウイルスはイヌ由来の細胞やネコ由来の細胞に感染するが,ASCT1 とASCT2 のどちらを受容体としているかは未だ明らかになっていない.
(「動物由来レトロウイルスの受容体(宮沢孝幸著)」雑誌「ウイルス」第59 巻第2号,pp.223-242,2009より転載(一部改変))

ちなみにRD-114ウイルスと同じ受容体(ASCT1または2)を用いる外来性のレトロウイルスは、サルレトロウイルス1型から5型(アカゲザルの肺ガンから分離されたMason-Pfizer monkey virus(MPMV))は3型に分類されます。)、ニワトリ細網内皮症ウイルス(reticuloendotheliosis virus)、アヒル脾臓壊死ウイルス(spleen necrosis virus)です。REVとSNVについても引用しておきます。