19日の緊急対策で口蹄疫沈静化は可能か?

 18日に開催された第13回牛豚等疾病小委員会を受けて、19日に農林水産省は以下のような緊急口蹄疫対策を発表した。

口蹄疫対策の要旨
 一、感染が確認された10キロ圏内のすべての牛と豚は、ワクチンを接種した上で殺処分。
 一、10〜20キロ圏内を緩衝地帯と位置付け、牛、豚の早期出荷を促す。農家の損失は国が負担。
 一、感染数が少ない宮崎県えびの市と、隣接する熊本県、鹿児島県は当面、殺処分や早期出荷の対象にしない。
 一、今後3週間、新たな感染が確認されなければ、口蹄疫終結と判断。
 一、ワクチンを接種して殺処分した牛1頭につき約60万円、豚1頭につき約3万5千円の奨励金を農家に支給。
 一、これまでに殺処分を実施した農家すべてに、牛や豚の評価額の5分の1を見舞金として支給。5分の4は家畜伝染病予防法に沿って手当金として支払う。
 一、農家への手当金のうち、宮崎県の負担分は、政府が特別交付税として補てんする。
 一、殺処分に伴う手当金の申請を簡素化。
 一、新たに発表した全頭殺処分や早期出荷などの対策に必要な予算は300億〜400億円を想定。
 一、獣医師50人、自衛官170人を追加派遣。これまでの派遣人員との合計は獣医師が約190人、自衛官340人。九州管区の警察官160人も宮崎県に新たに送る。

 補償についてであるが、昨日の江藤拓議員の国会質疑で承知のように、畜産農家はワクチンを接種して殺処分した牛に60万円、豚に3万5千円はとうてい受け入れられないであろう。いままで口蹄疫ウイルスと戦って、なんとか持ちこたえている畜産農家に「死刑宣告」をしているのと同じだからである。今日になって、山田副大臣が中心になって買い取り価格について折衝しているようだが、難航は必至であろう。また、必要な獣医師の確保もそうは簡単ではあるまい。ワクチン接種は早くても来週からというのが実際の所であろう。

 埋却地が決まるまで患畜を活かしておかなければならなく、患畜からのウイルス産生量を低減するという意味で今回ワクチンを使用するのは理解できるが、本当に効果があるかはやってみないと分からないだろうし、検証もできないだろう。文献をちゃんと読んでいないので私はわからないが、このワクチンの使用は、感染患畜が発生しているところではなくて、発生しているエリアの外側で緩衝地帯となるように行うのがセオリーだと私は思う。

 ワクチンを接種する場所が、感染が確認された10キロ圏内のすべての牛と豚となっていて、現在山田副大臣が交渉しているのは、現在殺処分の対象区域に入っている宮崎、西都の2市と、川南、都農、新富、高鍋、木城の5町と、対象外だが隣接する綾、国富町である。しかしである。発症確認からRT-PCRでの確認にタイムラグがあることを忘れてはいないだろうか?未確認であるが、今日の午後には宮崎市高岡町や木城で発症患畜が出たとの情報もMIXIでは流れている。特に高岡町は、東九州自動車道沿いであり、20kmほど離れた西都市とは高速道路でつながっている。西都市に出たことも驚きであるが(ただしまだ確定ではない)、そこからこれだけ(20km)離れたところでも感染患畜が発見されたとなれば(これももちろんまだ確定ではないが)、もはや感染はその数十km先でもすでに起こっていると考えて良いだろう。ここ数日の発表される感染域の拡大スピード、そして発症までの潜伏期間、発症してから公表されるまでの期間を考えると、都城市辺りも危ういかも知れない。

 あと数日で状況は一変するかも知れない。現在検討している7市町村での「ワクチン接種、殺処分」はもはや封じ込め作戦にもならないし、その外側10km(10〜20キロ圏内)の牛、豚の早期出荷は逆にウイルスの拡散の危険を伴うのではなかろうか。感染初期なら、発症していなくても動物からウイルスが排出されている可能性はあろう。

 農林水産省や専門家委員会は平成16年に作成した「口蹄疫に関する特定家畜伝染病防疫指針」にのっとり対応しているようだが、そもそもこの防疫指針が「役立たず」なのではなかろうか?私はすぐに半径10km以内の交通の完全遮断を考えたが、この指針を読むと「発生地及びその周辺に限局して、最大72時間交通の遮断を行う」ことになっている。半径10km以内の移動制限も、一般車両は対象にはならず、消毒を受けずに車両が半径10km以内に侵入、あるいはそこから出ることができる。これは甘過ぎではないのか?せめて川などの地形を利用して、10km圏内に入る道路のすべてで消毒ポイントを設けて、行き来させることはできないのだろうか?