XMRVが慢性疲労症候群と関連か?

慢性疲労症候群:マウス白血病「XMRV」ウイルスが原因
 原因不明の強い疲労が続く「慢性疲労症候群」の患者は、マウスの白血病ウイルスに近い「XMRV」に極めて高率で感染していることが、米国立がん研究所などの分析で分かった。9日付の米科学誌サイエンスに発表した。同症候群の原因に、ウイルスの過剰増殖による免疫反応の異常があり、研究チームは「XMRVが関与している可能性が出てきた」と説明している。
 血液検査の結果、米国の患者101人のうち68人(67%)でXMRVが陽性反応を示した。健康な人の陽性は218人中8人(3.7%)だけだった。
 同症候群は1980年代に米国で確認され、世界に約1700万人の患者がいると推定される。これまでの研究で、さまざまなストレスにさらされ続けると、免疫や神経の働きが乱れて発症することが分かっている。【永山悦子】(毎日新聞

 先月、Luccaであった学会での発表がついにScienceに掲載された。Science掲載への噂は5月くらいからあったのですが。。。
 EmbargoがあってBlogにも内容を書けなかったのですが、論文の詳細と解説は後ほどUPします。

 筆者らはCFSの原因がXMRVであるとは明言しておりませんが、XMRVのプロウイルスの存在とCFSが関連しています。
 CFS患者の体内では様々なサイトカインが発現しているので、XMRVも活性化してプロウイルスが検出されるようになったとも考えられます。

最近実施された試験の対象者である慢性疲労症候群CFS)患者のうち、2/3が血液細胞に感染性レトロウイルスを保有していることがわかった。しかし、そのレトロウイルスがCFSの原因となるかどうかは不明である。CFSでは多臓器と身体の自己免疫系が障害されるが、その原因は明らかではない。Vincent Lombardiらは、マウスの白血病ウイルスに遺伝子的に似たヒトレトロウイルスXMRVを、CFS患者101例中68例の血液試料に認めた。それに対し、健常被験者は218例中わずか8例にXMRVがみられた。LombardiらはXMRVが感染性であり免疫応答を引き起こすことを示している。ヒト前立腺腫瘍の一部にも最近認められたこのXMRVは、かなりの割合のCFS患者が保有していると考えられる。John CoffinおよびJonathan Stoyeが関連するPerspectiveのなかで考察しているように、保有率に関わらずXMRVがCFSを生じさせる可能性は依然として不明である。

http://www.sciencemag.jp/highlight/index.jsp?pno=180

この論文で重要なのはXMRVとCFSが関連しているかも知れないということよりも、XMRVが多くの人に既に感染して広まっているということです。今までXMRVは前立腺の組織で限局して増殖すると考えられてきました。(すなわちXMRVはヒトの体内では増殖は極めて限られていると考えられてきました。)また、これまで末梢血からプロウイルスDNAの検出は報告されておりませんでした。この論文ではCFSの患者の末梢血単核球中にプロウイルスが検出されるばかりか、血清中に感染性のXMRVが検出されています(すなわちXMRVが分離されている)。さらに健常者からも3.7%もプロウイルスが検出されています。日本においても、献血者、前立腺ガン患者にXMRVの抗体が検出されていることから、XMRVがアメリカ以外の国に広まっている可能性があります。XMRVと前立腺ガンやCFSとの関連は立証されたわけではなく、不透明な部分が多いのですが、XMRVが引き起こす病気は前立腺ガンやCFSだけでない可能性もあります。今後は疫学調査が必要になると考えられます。

 XMRVが発見されたのは2006年ですが、研究の進みは世界的にゆっくりしています。これははっきりしないウイルスには研究予算がつかないことによるのですが、XMRVのように感染してから発症まで数年から数十年かかることが予想されるレトロウイルスに対しては、はっきりしない段階から予算をある程度(インフルエンザウイルスやエイズウイルス研究の100分の1でもいいから)つけ研究を奨励するべきだと私は思います。今、問題になっているウイルスだけに研究予算をつけても新興ウイルス感染症対策にはならないのです。